here and there
2020 gelatin silver print, variable dimention
2022 paper, inkjet print, 150×297mm
写真と窓の関係は深い。初めて画像の定着に成功したニエプスの「ル・グラの自宅窓からの眺め」はさることながら、窓枠のフレーミング効果とそこにカメラを向ける事で生じる画面の二重構造は多くの写真家を惹きつけてきた。カメラが部屋にレンズが窓に置換え可能なことから、ピンホールルームをつくり撮影する者もいる。
原始の窓は、出入り口、展望、採光、換気を兼ねた一つの穴であったそうだ。後に穴が出入り口として独立し、他の機能と切り離され窓が誕生した。現在の窓と同様の形は近代以降のガラス技術の発展とともに完成した。19世紀前半に生まれた写真もまたいくつかの(比喩的な)窓を通過する装置であり、眼で見る、ファインダー越しに見る、カメラが写した写真を見る、という工程を経ることで複数の時間の層がある視覚経験をもたらした。しかし、今日のデジタル写真における窓事情は従来のそれとは異なるようだ。ディスプレイと一体となったカメラはシャッターを切る前から完成画像を示し、そこで撮影された写真は瞬く間にインターネットで共有され、同時多発的に現前する。それらすべての作業と視覚経験が、引き延ばされた現在という時間に集約され1枚のガラス越しに完結する姿はどことなく原始の窓を連想させる。
今作はデジタル写真がもたらす視覚経験を、実空間で光学的にシミュレートした組み作品である。原始の窓を手がかりとし、窓ではなく扉をレンズにピンホールルームを2部屋作った。1部屋は外の風景(今回は隣の部屋)の反射光がドアの穴を通過し逆さの状態で映し出される正規のピンホールルームだが、もう1部屋は、デジタル映像を扉にプロジェクションした擬似ピンホールルームを設えた。そして、両部屋の中に入り、映し出されている様子をデジタルカメラで撮影した。ネットワーク化された写真において異なる空間と時間をもつものが平地に置かれるように、この2枚の写真に写る扉に結ばれた映像もまた観者の前では同等の幻として振る舞うだろう。
stereogram: paper, inkjet print, 150×297mm
Installation view Solo Exhibition "室内風景—camera simulacra—" 2022, Marginal Studio/Bunka Union, Tokyo
gelatin silver print, acrylic mounting, 480×320mm
Installation view Group Exhibition "Camera Simulacra" 2020, AOBA SOH, Tokyo
gelatin silver print, acrylic mounting, 480×320mm
Installation view Group Exhibition "Camera Simulacra" 2020, Marginal Studio/Bunka Union, Tokyo